博物館についてスケジュールカテゴリー別府温泉事典リンク集

大分県の温泉(1)

1.はじめに-温泉の定義-
2.大分県の温泉分布・源泉数・温度などの概要

大分県の温泉(2)

3.泉質について
3-1.鉱泉分析法指針による鉱泉の分類
3-2.物質濃度の表わし方
3-3.基本的な泉質の名付け方

大分県の温泉(3)

3-4.泉質の決め方の問題点

大分県の温泉(4)

4.大分県における近年の源泉分布と泉質分布
4-1.適応症による泉質の種類(10種類の泉質)
4-2.平成22年3月末現在における大分県の源泉分布
4-3.陰イオンに着目した大分県の泉質の分布
4-4.いくつかの特異な濃度

大分県の温泉(5)

大分県温泉調査研究会会長
別府温泉地球博物館理事長

由 佐 悠 紀

5.温泉の生成メカニズム

 大分県には多様な温泉が存在する。それらの温泉がどのようにして出来ているのか、その生成メカニズムを解説する。
 本シリーズの第1回目で述べたように、温泉の自然科学的定義は「その土地の普通の地下水の温度より高温の水が地中から地表に出てくる現象」である。この定義には、温泉が出現するための要件が明示されている。その要件とは下記の3つであり、それらの内容を明らかにすることによって、温泉の生成メカニズムも明らかになるであろう。
 (1)熱源の存在、(2)水源の存在、(3)水(流体)の通路の存在

5-1.熱源-火山性温泉と非火山性温泉-

 「普通の地下水の温度」について、もう少し詳しくみておこう。「普通の地下水」とは、その土地の地下水のうち、最も浅い層を流れている地下水をさしている。その温度は年平均気温より1~4℃程度高い。そうした事実から、自然に湧出する泉水のうち、水温が年平均気温よりいくらか高い泉水が「温泉」とみなされた。その土地の気温を作り出す太陽エネルギーに加えて、「地下の熱源」によって加熱されたものと解釈されたのである。なお、この解釈は、温泉が自然湧出していた時代のものであることを注記しておきたい。
 年平均気温は、場所により、平均する期間により異なる。したがって、自然科学的定義による温泉の境界温度は多岐にわたる値となる。表10には、わが国および東アジア諸国のいくつかの都市における年平均気温を掲げた。わが国においては、稚内と那覇で16℃もの差がある。
 わが国では、明治時代の初期に温泉の研究が始まったが、温泉利用が進展するにつれて、全国的に統一された定義が必要となり、太平洋戦争以前に行われていた「薬学会協定鉱泉検査法」で、泉温は25℃以上と定められた。この人為的に決められた温度が、昭和23年7月に施行された温泉法においても、踏襲されたのである。当然ながら、この温度は寒冷地に厳しく温暖地に甘くなっている。

表10.日本各地の年平均気温(℃)[1971年~2000年: 理科年表2010年版より抜粋]

稚 内  6.6

札 幌  8.5

秋 田 11.4

仙  台 12.1

前  橋 14.2

東 京 15.9

新 潟 13.5

金 沢 14.3

長  野 11.7

静  岡 16.3

岐 阜 15.5

大 阪 16.5

松 江 14.6

広  島 16.1

高  知 16.6

福 岡 16.6

熊 本 16.5

大 分 16.0

鹿児島 18.3

那  覇 22.7

台 北 22.3

ソウル 12.3

上 海 16.1

北  京 12.3

バンコク 28.5

 先に述べた「地下の熱源」は、当時の温泉のほとんどが火山地域にあったことから、火山活動に起因するものと考えられた。その後、近年に至るまで、この考えに抵触するような温泉は現れなかった。
 ところが、油田地域では、数千メートルもの深い掘削によって、高温の地下水が見出されていた。そして、それらの温度が温泉法の定義を満たしていることが注目され、新しいタイプの温泉として登場したのである。この新型温泉は、火山活動と直接の関係が無いため、「非火山性温泉」と呼ばれた。地下深部の高温水であることから、「深層熱水型温泉」とも呼ばれる。ここに、火山地域に分布する従来からの温泉は、「火山性温泉」と呼ばれるようになったのである。

[大分県の火山性温泉]

 大分県の中央部を占める別府-湯布院-九重地域は火山活動域であり、ここに分布する高温の温泉は、わが国における「火山性温泉」を代表するものである。これについては、次回以降に詳しく述べたい。

[大分県の非火山性温泉]

 1970年代半ば頃から、大分市では掘削による温泉開発が本格化した。大分市の土地は堆積平野であり、火山活動とは無縁であるが、地下の温度の上がり方はかなり大きく、100m深くなるごとに5~6.5℃程度上昇する。大分の年平均気温はおよそ16℃であるから、700~800mも掘削すれば、50℃前後の温かい地下水が得られる。温泉法の定義に照らせば、「温泉」である。2011年現在、こうした非火山性の温泉は200箇所を越えている。大分市は、今や大温泉地とさえ言えるほどになった。
 なお、深さと共に地下温度が上昇する割合は「地温勾配」あるいは「地下増温率」と呼ばれ、100mごとに3℃程度上昇するが普通である。したがって、大分平野での掘削深度は、ほかの地域よりいくらか浅い。

[非火山性温泉の特性]

 このような非火山温泉の熱源は、地温勾配によって地下深部から流れてくる熱であり、「地殻熱流」と呼ばれる。この熱流量は小さいので、加熱の速度は非常に遅い。それゆえ、地下深部に長期間にわたって滞留した水だけしか、非火山性温泉にはなり得ない。端的には、太古に土砂が堆積したとき一緒に閉じ込められた水だけが、非火山性温泉になる。それらの古い水は化石水と呼ばれ、平野や盆地など、堆積層の厚いところで見いだされる。
 化石水である非火山性温泉の水には、海水起源と陸水(淡水)起源の二種があり、それぞれを化石海水型温泉および深層地下水型温泉と呼ぶ。前者は塩分濃度が高い。後者は塩分濃度が低く、茶や黒に着色していることが多い。
 着色の原因は、地層の堆積時に閉じ込められた、植物などの炭化や腐食による。したがって、メタンなどの可燃性ガスを伴うことがある。2007年6月19日、東京の渋谷駅近くの温泉施設で発生したガス爆発のため、女性従業員3名の方が亡くなったのは、痛ましい事件であった。

 大分市には、海水起源と陸水起源の両者が存在する。陸水起源の温泉は、茶褐色に着色している。メタンガスを伴うものもあって、掘削時に発火・炎上したことがある。掘削時はもちろんのこと、浴室などでは換気を十分に行うなどの注意が必要である。

参考文献
  • 国立天文台(2009):「理科年表 2010年版」,丸善.

(つづく)

「大分県環境保全協会会報 EPO 平成24年新年号(2012)」より

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