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HOMEアーカイブ:講演会・発表会資料>2012.11.26日本温泉地域学会資料

日本温泉地域学会では、下記の要領で「第20回研究発表大会」を開催しました。

 ●期日:平成24(2012)年11月25日(日)・26日(月)
 ●場所:岐阜県下呂市、下呂温泉
  (日本温泉地域学会については、リンクをご覧ください。)

その2日目(11月26日)に、由佐理事長が「別府温泉地球博物館について」という題で、博物館のことを紹介しましたので、その内容を掲載します。




鶴見火山群と別府温泉の全景(手前が東・別府湾)
(写真:別府市誌平成15年版より)

 先ず、別府温泉の概要をごく簡単に紹介します。別府温泉は、活火山・鶴見火山群(写真)の東麓、別府湾に面する斜面(扇状地)の東西5km・南北8kmの範囲に展開しています。
 古くから知られていた温泉で、最初の記録は8世紀前半に編纂された「豊後国風土記」に出ており、現在の「血の池地獄」「坊主地獄」と思われる地獄が登場します。
 また、これと同じ頃、豊後水道の向こうでも「伊予国風土記」(愛媛県の古記録)が編纂されましたが、その本文は散逸してしまい、わずかに残った部分(逸文)に、別府温泉と思われる温泉(速見の湯)が登場します。








別府温泉の源泉分布
噴気沸騰泉
●:一般温泉

 全ての温泉地と同様に、江戸時代までの別府の温泉は「自然湧出」のものでしたが、明治維新で日本が近代国家に生まれ変わると、ほどなく、別府では上総掘りの原型となる方法で、小口径の温泉井戸掘削が始まりました。以来、掘削が進み、明治の末頃は乱掘状態になったようです。さらに、太平洋戦争後には温泉開発が急速に進んで、現在は上図にように、扇状地の全域に温泉井戸が分布しています。

別府温泉の諸元(2011年3月末)

全国の温泉地数 : 3,185
全国の源泉数 : 27,671 (大分県:4,538)
別府の源泉数 : 2,362 (全国の8.5%)
1分当りの採取量 : 87,486リットル(全国の3.3%)
噴気・沸騰泉数 : 278 (全国 1,069 )
市面積 : 125 km2(国土面積の0.03%)
(参考)1日当りの採取量:約50,000トン(キロリットル)

 上の表は、2011年3月末の別府温泉の諸元です。環境省の統計にある全国の源泉数なども挙げましたが、源泉数・採取量とも全国一と言っても許されると思います。特徴の一つは、噴気・沸騰泉数が多いことに象徴されているのですが、高温の温泉が多いことです。
 これほどまでになったのは、温泉の有効利用と温泉地としての発展を目指した、民・産・官の長年にわたる行動の結果ですが、それが可能だったのは、別府温泉には高いポテンシャルの温泉資源があるからこそだと思います。

別府温泉の観光客数

 昭和40年代初め:
   年間観光客数 約700万人;(内)修学旅行生 約130万人
 
 平成22年度(H22年4月~23年3月)
  総数 7,932,851(宿泊 2,323,631);(内) 修学旅行 38,704(宿泊 8,164)
昭和40年代の3%    

 目を転じて、近年の年度延宿泊利用人員数の変遷をみてみますと、別府温泉をはじめ、地方の多くの温泉地の旅客は、減少の一途をたどっているとよく言われます。上の表は、別府温泉の昭和40年代の初めの観光客数と、近年の観光客数を比べたものです。統計の方法が違うので、簡単には比較できないと思いますが、数字の上では10%ほど増えています。しかし、近年の宿泊者数は全体の30%に過ぎず、以前の観光客数のほとんどは宿泊者数と思われるので、三分の一にまで減少したことになります。
 さらに、もっと注目しなければならないのは、修学旅行生数が激減していることです。昭和40年代のわずかに3%です。子供たちの数が減ってしまったこと、言い換えると、子供たちが温泉を経験しなくなったのは、温泉地の将来を思うと、大変な問題だと思います。

 なぜこのようになってしまったのか?
 ある会合で、旅行産業に関わっている人から、「現在の温泉地は修学旅行の対象地としての要件を備えていない」という意味のことを聞いたことがあります。全国修学旅行研究協会のアンケートの項目に、修学旅行の意義として「見聞を広め、知識を修得すること」があるのですが、「要件」とは、このことだと思います。

 修学旅行とは別に、一般の旅行客の意識はどうなのかも気になります。「旅行者にとっての温泉の魅力は?」というような設問がなされた2つのアンケート調査結果を紹介します。
 1つは、日経産業消費研究所が2001年末から2002年初めにかけて実施した、「主要66温泉地の魅力度評価調査」という調査です。これは、温泉の専門家を対象にした調査なのですが、その結果は、「自然」「街の情緒」「源泉の質」などの評価が高く、「遊興の場」としてはあまり評価されていません。
 2つめは、日本温泉協会が毎年実施している「旅と温泉展」の際に行っているアンケート調査です。その中に、「最も行ってみたい温泉地選定理由」という項目があるのですが、平成14年3月の結果では、「自然環境」「温泉そのもの」「温泉情緒」が上位を占めて、前の専門家の評価とほぼ同じで、「宿の施設」「味覚」「療養効果」などは、主要な要因ではなさそうです。
 下のグラフは、平成21年2月27日~3月2日に行われたもので、これは「選んだ理由」ですが、これでも、やはり同じ様な結果になっています。

日本温泉協会「旅と温泉展」
(H21年2~3月)
アンケート結果

回答者数
総数 2569人
(内 東京 1755人)

 これらのアンケート結果から浮かんでくるのは、温泉への旅行客は「温泉を核にした優れた環境を期待して、その地を訪れる」のではないかと言うことです。

 私は、上のような温泉観光客の志向を踏まえて、日本温泉協会の機関誌『温泉』の「74巻(2006年)10・11月合併号」(通巻804号)に、以下のような提案をしました。

「談論風発(9)」温泉の地球科学を楽しもう-修学旅行の場としての温泉地― (要旨)


 私(由佐)は、「修学旅行の対象地としての要件に応えられる潜在的力」を温泉地は持っていると思っている。潜在的力とは、温泉に関する諸々の科学である。すなわち、医学のほか、温泉の発見にまつわる伝承、利用・発展の歴史、著名人の来訪と事跡、育成された温泉情緒などに関する人文・社会科学。古くからの温泉地では、その研究成果が蓄積されている。問題は、それらを修学旅行生の興味をそそるような形にして提供できるかどうかである。

【温泉の地球科学】
 19世紀の中頃から始まった近代的な温泉研究は、温泉の要素「熱・水・物質」の起源の解明を目指してきた。火山性温泉に限って極言すると、温泉はマグマと天水が、岩石類と接触しながら、作り出した産物である。
 このモデルは常識的とも言えるが、未解明の部分を含みながらも科学的に説明できるようになったのは、プレートテクトニクスに基づく地球観の下で、温泉に関する各種のデータが出揃ってきた、最近になってからのことである。温泉の地球科学は、新しく展開し始めたと言える。

【提案】
 温泉への旅行客は、温泉を核にした優れた環境を期待している。そうした志向を持つ人々に、その温泉をその場所に出現させた自然のメカニズムを提供できれば、温泉の楽しみ方にもうひとつの要素を付け加えることができるだろう。
 各地の温泉において、新しい温泉観に基づく情報を提供できるようになれば、修学旅行の適地としてよみがえる可能性が高まるのではないかと期待する。
 それには、ハード・ソフト両面での温泉地の整備が必要である。近ごろ、いくつかの温泉地が連携した温泉地周遊の試みが始まったと聞く。広い視野での温泉と景観の楽しみ方だと思う。その中に、この新知識を取り入れてみるのも、ひとつの試みではないかと思う。

 最近のこと、ある人が、旅行の3つの要素として「観る」・「食べる」・「学ぶ」を挙げています。私も同感です。しかし、現在の温泉地には、前に述べたように、修学旅行の要件「見聞を広め、知識を修得すること」、これは「学ぶ」そのものですが、この要素が欠けている、あるいは、軽視されていると思います。

【別府温泉での試み】
 実は、別府温泉では、これまでも、修学旅行の要件を満たそうとする試みがありました。たとえば、昭和30年代に、京都大学理学部附属地球物理学研究施設(現:地球熱学研究施設)が、建物の半分を温泉博物館として公開しましたが、諸般の事情のため、数年で閉鎖せざるを得なかったという経緯があります。
 その後も、温泉博物館の建設が構想されながら、頓挫して現在に至っています。

京都大学地球熱学研究施設;1924年開設
向かって左半分が、博物館に当てられた。

 この間、高度な情報社会が実現しました。温泉についても、その技術を生かした広報活動が可能となり、すでに、インターネットでは、温泉に関するさまざまな情報が提供されています。
 しかしながら、別府温泉に関しては、長年にわたって蓄積されてきた温泉科学の多様な知見(自然科学・医学・社会科学・人文科学等々)が、市民や旅客に十分伝えられているとは言いがたいようです。間違った例を挙げますと、一部では「別府温泉の塩化物イオンは岩塩起源」と言われているようです。
 この理由は、たとえば自然科学の論文に見られるように、専門用語で書かれていること、および、それに由来する閉鎖性の故ではないかと思われます。
 そこで、この度、こうした状況を危惧し、その打開策を考えてきた仲間たちと協力して、別府に蓄積されている情報を分かりやすい形にして発信する、というシステムの構築を企画しました。かつて『温泉』誌で提案したことの実現にもなります。
 すなわち、「別府温泉地球博物館」の創設です。この構想の概要を挙げますと;

【主旨】
 別府温泉の多岐にわたる科学の魅力を世界に向けて発信し、別府観光の新しい価値を創造し、豊かな地球環境を次世代へ受け継がせる。
【目的】
 新しい時代の旅客の創出、および温泉に対する科学的知識と愛着を持った別府市民・子供たちの創出。
【方法】
 別府温泉に関するさまざまな情報をウェブで発信し、それによって訪れた旅客を温泉科学のフィールドに案内するシステムを作り、それらを支えるプロガイドなどの人材を市民の中に養成する。

ただし、博物館と言っても、建物はありません。次の3本の柱を立てることによって、この構想を実現しようと考えています。

(1)バーチャル博物館
 多くの人びとに別府温泉を楽しんで理解してもらうことを目的として、インターネットを通して、別府温泉に関する自然科学・医学・社会科学・人文科学など多岐な分野の研究成果を、出来るだけ平明な表現で世界に向けて発信・公開する。


(2)フィールド博物館
 別府温泉全体を野外の博物館とみなし、多様な温泉現象や文化に触れられるような場を整備して、別府温泉を訪れる人びとに提供する。


(3)人材育成
 温泉を深く学ぼうとする人びとの要望に応えるための講座を開設し、将来にわたって、豊富な知識を蓄えたプロの温泉ガイドの養成を目指す。

 3年を超える準備を経て、「別府温泉地球博物館」は、この8月初めに、先ず「バーチャル博物館」を公開することによって、第1歩を踏み出しました。そして、11月には、第1回目のフィールド観察会を行いました。
 今後、「バーチャル博物館」の内容の充実を計るとともに、産・官・学・市民の共同作業によって、「フィールド博物館」を整備し、「人材育成」を前進させたいと思っています。
 「別府温泉地球博物館」で検索可能ですので、のぞいていただき、ご意見などをたまわれば、ありがたく存じます。なお、URLは、次のとおりです。  http://beppumuseum.jp/

以上 ご清聴ありがとうございました。

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