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地球のはなし  別府温泉地球博物館 代表・館長 由佐悠紀

No.69
寒い国

 ブッシュ大統領が、超大国ソビエトの脅威はなくなったとして、ミサイル類の生産中止を宣言し、エリツィン大統領が軍縮を提案したのは、もうずいぶん以前のことのような気がするのだが、このニュースは1月29日に京都のホテルで見たのだから、ついこの間のことである。
 その2日後、東京で、大雪の降りはじめに出くわした。翌2月1日、大雪による混乱のために、東京駅でおよそ3時間も寝台特急・富士の発車を待った。2日の明け方、岡山駅で、東京で震度5の地震があったことを聞いた。別府に帰ってからも、なんだかんだとあった。人の世も自然界も、めまぐるしく動く。
 こんなことを書くつもりではなかった。1月29日のニュースを見て、ジョン・ル・カレの小説『寒い国から帰ってきたスパイ』を思い出したことを書こうとしたのだ。
 20年以上も前、ベルリンの壁を舞台にしたこのベストセラーを、のめり込むように読んだ。リチャード・バートン主演の映画も見た。南極の小さな基地では、スコットランドからの男がトイレにまで持ち込んで読んでいた。ごく最近まで、東西冷戦に伴うスパイ合戦は、小説のままではないにしても現実のことだと、世界中の多くの人が信じていたと思う。
 しかし、こうして情勢が変化すると、ああした世界は、東西冷戦の構造も含めて、存在しなかったのではないだろうか、という気がしてくる。記憶の風化の速度は、あまりにも迅速にすぎる。
(注)ブッシュ大統領は父の方。基地はバンダ基地。

ー1992.2大分合同新聞 別府版ー

★温泉マイスターnoteにも掲載しています
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別府温泉地球博物館理事長の由佐悠紀が執筆し、新聞・雑誌などに掲載されたものから温泉に係るものを順次ご紹介します。