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HOME2017.11.18「せーので測ろう!別府市全域温泉一斉調査」参加レポート 甲斐心也

「せーので測ろう! 別府市全域温泉一斉調査」参加レポート

シニア・マイスター 甲斐 心也

 別府市・別府ONSENアカデミア実行委員会・別府市旅館ホテル組織連合会・特定非営利活動法人 別府温泉地球博物館・京都大学大学院理学研究所付属 地球熱学研究施設・大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所の共催で「第二回せーので測ろう! 別府市全域温泉一斉調査」が、平成29年11月18日(土)に全国から地球環境学や温泉・地学などの研究者を集め、温泉愛好家の協力の下に行われました。
 今季一番の寒気の襲来で由布岳・鶴見岳は初冠雪をまとい、時折、小雨交じりの肌寒い一日でしたが、集合時間の午前9時には総勢50名の参加者が、別府市中央公民館一階講義室に勢ぞろいしました。



 本調査の案内パンフレットには、「別府市の生活や観光に欠くことの出来ない温泉。湯量や泉質はもちろん、温度も大切なポイントです。湯のまち別府の「財産」をしっかりと運用・管理するためには、継続的に記録を取りながら変化の有無を確かめることが重要です。一緒に温泉の科学とフィールド調査を体験しませんか。」と、その趣旨が記載されています。

 

 11に分けられた各班でメンバーの自己紹介の後、今日の調査源泉の場所を確認し、事務局からの調査に当たっての注意点を確認したうえで、市内各所に向かって出発しました。
 我が6班は、「別府温泉地球博物館」の由佐館長を班長とし、薬剤師会の宮川さん、東京都市大学馬場研究室の3年生の伊藤君と國井さんの総勢5名です。
 6班の調査源泉は、ジモ泉共同浴場の「吉弘第二温泉」、宿泊施設の「別府パストラル」と、石垣東の個人宅、上人南の個人宅の4カ所です。
 まずは「吉弘第二温泉」を目指しますが、事前に配られた地図の読み方が悪いのか、目的地になかなか到着できません。通行中の方にお尋ねると、すぐそこだったのですが、ジモ泉のため表に看板などもなく、冷や汗をかいてしまいました。浴舎に入るとご老人がお一人で入浴中、ご挨拶をして採湯させていただきました。ここは今年新たに加わった調査源泉です。測定温度は51.1℃でした。ちなみに温泉名は近くにある戦国時代の大友宗麟配下の名将「吉弘統幸」を祀る吉弘神社に由来するようです。


 2番目の調査地点は上人南の個人宅です。ここは昨年も調査させていただいた所で、個人宅8軒が共同で所有されています。車も入れない狭い路地の奥に貯湯タンクがあり、直下の源泉から63.3℃(昨年の観測では63.7℃)の弱アルカリ性単純泉が、地下250mから汲み上げられています。人懐っこい白いワンちゃんが我々を歓迎してくれました。
 由佐先生と私が計測し、宮川さんが調査結果を報告用紙に記入、WEBでの本部への報告は学生の伊藤君がテキパキとやってくれます。國井さんも器具や容器をタイミングよく渡してくれ、チームワークもばっちりです。
 次は石垣東の個人宅で、宅地の奥まった場所に独立した浴舎がありました。1m×1mぐらいの小さく深い浴槽で、浴槽への注ぎ口で測定しましたが、昨年が55.5℃で今年の46.2℃は測定に誤差が生じているのかもしれません。所有者の方にお話を伺っていたら、おばあちゃんが突然、由佐先生を「ブラタモリに出ちょった人やなぁ」とおっしゃいました。さすがは人気番組と感心した一幕でした。この時点で11:30を過ぎていましたので、急いで次の場所に向かいました。


 最後は東荘園の「別府パストラル」で、ここも今年から調査地点に加わった宿泊施設です。フロントの担当の方にご挨拶すると、メンテナンスを請け負っている会社の方を呼んで下さいました。温泉棟の隣に大きな貯湯タンクがあり、2本の自家源泉の湯をここで混合して、浴槽に流しているとの事でした。分析書によれば「ナトリウム・マグネシウムー炭酸水素塩泉、51.2℃、PH8.0、成分総量1253㎎」ですが、この日の測定温度は46.4℃でした。
 横浜からわざわざ手伝いに来てくれた若い2人のリクエストで、大分名物のトリ天定食の昼食を取って、公民館にもどり電気伝導率の測定を行いました。いずれも150ms/ⅿ前後で、成分量の少ない泉質であることが確かめられました。


 午後は主催者の総合地球環境学研究所の遠藤愛子準教授の挨拶、別府市副市長の阿南寿和氏の挨拶に続き、由佐先生の「別府温泉の源(もと)」と題するご講演を拝聴しました。次に大分県生活環境部保護推進室の担当者による「温泉資源監視基礎調査事業の概要」に関する説明と、3地点のモニタリング状況の推移の報告がありました。
 最後に龍谷大学の山田講師より、今回の調査結果の速報報告がありました。その中で、温泉井戸の水深と温度、泉質の分布を示す3Dグラフが興味深く、今後のためにも「深さ」の視線は重要だと強く感じました。

 

 最後に夜の懇親会での、九重町の温泉湧出量は数年後には、別府市を抜く事になるという驚愕の話題です。平成28年3月末の県の統計では、別府市が87,347㍑/分で、九重町が83,742㍑/分で、すでに由布市を抜き、別府市に肉薄しています。現時点で地熱発電のために九重町に届出が出されているのは、資源調査段階にあるもの5件、掘削段階にあるもの6件、発電所建設段階にあるものが2件となっていました。
 地熱発電で利用されるのは熱水ではなく、噴気です。未利用の熱水を地中に戻すなどの対策を講じて、温泉資源の枯渇などという憂慮すべき事態にならないことを願うばかりです。そして、今回の調査の様な、継続的なモニタリングを通じて、温泉資源の保護対策を実施しなければならないと思います。