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地球のはなし  別府温泉地球博物館 代表・館長 由佐悠紀

No.52
中国の塩湖・水・地熱見聞記Ⅵ
ウルムチ・トルファンの水と塩

 新彊ウィグル自治区の首都ウルムチには、これまでの諸都市とは何かしら違った、独特の雰囲気がある。それは、集まってくる人々のせいであろう。黒髪の人、金髪の人、碧眼の人、ヨーロッパ系の顔立ち、トルコ系の人、蒙古人らしい人、それに漢民族等々。中国最大の面積を占めるこの自治区には、13もの民族が居住している。さながら人種のるつぼであり、別世界に来たという感が深い。

 アジアの真ん中にあるこの都市も、古い歴史を持っている。漢代には西域都護府が置かれ、シルクロードの天山北路はこの街を通過した。ウルムチとは蒙古語で「美しい牧場」という意味だそうである。しかし、この名は近年付けられたもので、解放前は迪化と言った。人口8万人ほどの小さな町だったらしいが、現在は110万人にもふくれあがっている。(2008年は250万人)

 市域の標高は700~800m、天山山脈が途切れた鞍部の北面に位置する。もちろん乾燥地帯であって、年降水量は200mmに満たない。郊外の平原には、丈の低い草がまばらに生えているだけである。私達にもなじみの深いゴビ(戈壁)とは、そのような地帯を言うのだそうで、羊の放牧地になっている。しかし、近年は、感慨技術の進歩によって、このゴビでも冬小麦が栽培されている。その主な水源は、天山山脈からの河川水や地下水である。道路沿いにはポプラなどが植林され、大規模な自然改造が進められているように思われた。

 ウルムチから東へ約100kmの天山山脈山中に、天池という深さ40m、湖水面積3km2ほどの小さな湖がある。標高は1900m余。山ふところに抱かれ、湖畔には榧に似た喬木が繁り、雪をいただく峻険な高山が遠望される。湖は、それら山々からの融氷水によって涵養され、流出する川は無い。その代りに、いわば底が抜けたような状態になっていて、湖底から漏れ出した湖水は、いったん地下に伏流し、山の中腹から湧き出して、盆地へと流下する。人々は、この流れに沿って集落を作り、また、遊牧民はパオ(テント)を張る。

 シルクロードの町として、近年、二本からの観光客も多いトルファンは、ウルムチから200km余り東南方向に下ったトルファン盆地にある。広々としたゴビを一時間も走ると、丘陵の麓に塩湖や干塩湖群が現れる。ここでも製塩が行われていて、ウルムチで使用する食塩の全てを生産しているとのことであった。

 さらに一時間で、ようやくトルファン盆地への峡谷の入り口に至る。天山山脈に端を発するひとすじの小川が谷底を流れ、それに沿うごく狭い範囲に草木が生えているだけで、灰色の岩とその砕削物がむき出しになった見上げるばかりの急崖には、ただ一本の草も生えていない。

 そのような隘路を下ること20分、谷が急に開けると、ただ灰色の礫の荒野(戈壁礫石帯)が延々と続く。ところが、道路沿いには、またしても電柱が立ち並んでおり、はるかかなたには、砂塵を巻きあげて車が走っているのが見えたりする。1300年以上も昔、玄奘三蔵はこんな道を通ったのかと驚くと同時に、このような不毛の地にさえ、人の手が深く入っていることに、むしろあきれてしまうのであった。

 砂礫ばかりの荒野を40分も走ると、次第にブッシュの数が増え、緑の色が濃くなって、遠くにポプラの森に囲まれたオアシス都市トルファンが姿を現わす。近づくと、道路に沿って、水がとうとうと流れる水路さえある。名高い地下水路カレーズ(中国語では坎児井と書く。カージンまたはカールジンと聞こえた)によって導かれてきた水が、地表に姿を現わしているのである。

 トルファンの標高は約40mと低い。ウルムチより更に乾燥し、ほとんど降水が無い。平均年降水量はわずかに16mmである。それでも、1984年はかなりよく降った。おかげで、名産のブドウヤメロンの出来具合が、例年になく良かったそうである。どれ位降ったかというと、たったの36mmだそうである。

 このような乾燥地帯ではあるが、2000mを超える高山部では、500~600mmの年降水量がある。それらの水は盆地へと注ぎ、水量の豊富な地下水系を形成している。前述のカレーズは、それを採取するための古い歴史を持つ知恵の所産である。トルファン盆地全体で1600ものカレーズがあり、年間の出水量は9億トンに達する。

 トルファン盆地の底は、アイジンフーという塩湖になっていて、ここでも製塩が行われている。湖水面の高さは-154mと、海面よりずっと低く、アジア大陸の底でもある。かつては124km2の湖水面積があったが、1958年には22.5km2、そして近年は10km2以下にまで縮小し、現在、ほとんど干塩湖に状態になっている。

 最近の調査によれば、中央アジアの盆地部にある湖のほとんど全てが、縮小しつつあるという。灌漑などのために、河川水や地下水が高度に利用されるようになって、湖への流入量が激減したこと、すなわち人間の活動が、その主要な原因であるらしい。

 案内していただいた新彊地理研究所の人に、温泉はありませんかと聞いてみた。残念ながら、今までの所、見つかっていないそうである。

ー地熱エネルギー、10巻4号(通巻32号、1985)に掲載ー



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別府温泉地球博物館理事長の由佐悠紀が執筆し、新聞・雑誌などに掲載されたものから温泉に係るものを順次ご紹介します。