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別府温泉辞典

あ か さ た な は ま や ら わ

温泉ガス

おんせんがす

 火山性温泉であれ非火山性温泉であれ、温泉にはガス(気体)が伴っており、それらを総称して温泉ガスと言います。主成分は水蒸気(H2O)ですが、これを除いた主なガスを表1に示しました。

 表1 主な温泉ガス一覧;参考として二酸化硫黄を掲載
名称 化学式 起源 比重 特徴
二酸化炭素 CO2 火山ガス,有機物 1.529 無臭、高濃度は危険
硫化水素 H2S 火山ガス 1.190 腐卵臭、有毒
二酸化硫黄 SO2 火山ガス 2.264 刺激臭、有毒、温泉では稀
メタン CH4 有機物 0.555 無臭、引火爆発の危険性

比重:標準状態(0℃、1気圧)で、空気の密度を1とした相対密度(理科年表による)


 火山性温泉の主要な温泉ガスは、二酸化炭素(炭酸ガス:CO2)と硫化水素(H2S)です。これらは火山ガス(火山性温泉の項を参照)に由来しますが、火山ガスの主要成分である塩化水素(HCl)と二酸化硫黄(亜硫酸ガス:SO2)はほとんど含まれていません。HClとSO2は温泉水に溶け込み、イオンになってしまうからです。
 他方、非火山性温泉の主要な温泉ガスは天然ガス(炭化水素:炭素と水素の化合物、ほとんどがメタン:CH4)と二酸化炭素です。陸水や海水が地中に閉じ込められたとき、一緒に閉じ込められた動植物(有機物)が熱やバクテリアなどの作用で分解され、メタンや二酸化炭素が発生します。
 また、温泉水には大気起源の窒素(N2)・酸素(O2)・アルゴン(Ar)が含まれていますし、ごく微量ですが、ヘリウム(He)や水素(H2)なども含まれています。

 さて、二酸化炭素は炭酸泉や炭酸水素塩泉の生成に、硫化水素は硫酸塩泉の生成に関わっているという意味で、温泉ガスは温泉の重要な構成要素です。しかし、人間にとっては害になることもあります。その代表例は、硫化水素中毒とメタンの爆発で、過去には人身事故もありました。


【火山性温泉や火山での事故】

1919年:那須殺生石(栃木県那須町);観光客3名昏倒、2名死亡、1名蘇生。
1986~1997年:阿蘇中岳(熊本県);火口付近で観光客の昏倒などの事故、7名死亡。
1997年:八甲田山麓(青森県);訓練中の自衛隊員3名、窪地で死亡。
1997年:安達太良山(福島県);火口付近で登山者4名死亡。
2005年:泥湯温泉(秋田県);積雪した駐車場の窪地で、家族4名死亡。
2014年:登別温泉町(北海道);温泉貯湯タンクの中で、清掃作業中の2名死亡。
 以上のほとんどは硫化水素中毒と思われますが、阿蘇中岳の事故には二酸化硫黄が関わっていた可能性があります。


【非火山性温泉での事故】

2003年:宮崎県西都市;温泉掘削工事中にライターの火が引火、作業員3名火傷。
2005年:東京都北区;温泉掘削工事中に火災発生。
2005年:大分市小野鶴;温泉掘削工事中に発火炎上。
2007年6月19日:東京都渋谷駅近くの温泉施設;ガス爆発により、従業員と通行人6名被災、うち女性従業員3名死亡。
 以上はいずれも、メタンの引火・爆発と思われます。



事故への対策

【法的な対策】

 東京都渋谷という大都会での爆発事故は社会に大きな衝撃を与え、これを機に温泉法第一条の条文が改正されることになりました。下記の下線部が改正(追加)の主要部分です。また、関連の条文および温泉法施行規則にも、ガスに関わる事項が追加されました。

温泉法  第一条 この法律は、温泉を保護し、温泉の採取等に伴い発生する可燃性天然ガスによる災害を防止し、及び温泉の利用の適正を図り、もって公共の福祉の増進に寄与することを目的とする。

【現実的な対策】

 温泉ガスによる事故が起こらないようにするには、それぞれのガスの特性を見極めた対策を講じなければなりません。その基本は、掘削工事現場から利用施設にいたるまで、十分な換気を行うことです。その際、それぞれのガスの空気に対する比重のデータが役立つと思われますので、それらを表1に示しました。

 空気より重いガス(比重が1以上:CO2、H2S、SO2)については、浴場をはじめとする施設をガス類が溜まらないような構造(下方に通気口を設置するなど)にすることが肝要です。また、火山や噴気地などの野外では、とくに窪地のような低い所にはガスが溜まっているおそれがあるので、不用意に腰を下ろさないことです。
 大分県では、別府地域の伽藍岳・鍋山・明礬の噴気地、九重地域の噴気地などで硫化水素が噴出していますから(九重硫黄山では二酸化硫黄も噴出)、訪問者は注意を要します。

 他方、メタンのように空気より軽いガスについては、施設の上方を開放して、ガス類が抜けるような構造にすることが大切です。メタンは可燃性ですから、不用意な行動による発火や引火が起こらないように注意するのは、もちろんのことです。大分平野では、天然ガスの存在が知られているので、温泉井戸の掘削作業時にも、細心の注意をはらう必要があります。

執筆者由佐悠紀)